水郷十六島平坦サイクリング@鹿島神宮式年大祭往路

古の内海を走る――御船祭の朝、BESV PSF1で往く香取・水郷十六島

12年に一度、鹿島神宮の神輿を乗せた大船団が水上を往く式年大祭「御船祭(みふねまつり)」。当日の私は佐原駅近くの市街地からペダルを踏み出しました。

目的地は北利根川沿いの加藤洲です。しかし、この記事の主役はお祭りそのものではありません。水面と陸地がどこまでも水平に交わる、この水郷地帯の圧倒的な静寂と、そこに息づくインフラの構造美です。

相棒は折りたたみe-bikeの「BESV PSF1」です。坂道がただの一箇所もないこのフラットな大地を、滑るように駆け抜ける旅が始まります。

1. 喧騒をあとに、水と神話の入口へ

佐原の街並みを抜け、利根川右岸の土手道へと出ます。

今年4月、香取神宮の「式年神幸祭」で陸を行く大行列を迎えた街は、溢れる人々で熱気に包まれていました。しかし、9月の御船祭の朝、土手の上に立つ津宮(つのみや)の浜鳥居の周りには、驚くほどの静けさが広がっていました。

かつて神々を乗せた船が着岸したとされるこの場所は、まさに水郷の歴史のポータル(入口)です。曇り空の下、静かに佇む大きな木製の鳥居と、その向こうにゆったりと横たわる利根川。ハレの日の裏側に広がる、この静けさこそが水郷の素顔なのだと感じます。

津宮の鳥居と利根川

2. 水鏡の向こうに広がる、坂のない大地

津宮の鳥居を過ぎ、川沿いに目を凝らしてみます。

風が止み、利根川の水面が鏡のように上の空と雲、そして対岸のシルエットを映し出していました。対岸に見えるのも、同じ香取市の干拓地エリアです。

見渡す限り、視界を遮る山もなければ坂道もありません。かつて「香取海(かとりのうみ)」と呼ばれた巨大な内海が、干拓によって農地へと生まれ変わり、現在の水郷十六島となりました。

どこまでも平らな水と陸。この広大な平野をこれから走るのだという高揚感が、静かな水鏡を前にしてゆっくりと込み上げてきます。

津宮近くの利根川水鏡

3. 現代のインフラを伝って「水郷十六島」へ渡る

津宮から東関道の人道橋へとアプローチをとります。緩やかなスロープを登り詰めると、一気に視界が高くなりました。

眼下を渡る利根川の川幅は圧倒的です。上流側に目を向けると、真っ直ぐに水面を横断するJR鹿島線のトラス鉄橋が伸びています。

かつて舟でしか渡ることのできなかった広大な水域を、今は巨大な橋や鉄橋といった現代のインフラが軽々と繋いでいます。PSF1のアシストに背中を押されながら人道橋を渡る瞬間、川面を吹き抜ける風とともに、水の上を飛んでいるかのような独特の浮遊感を覚えました。

人道橋からの利根川とJR鹿島線鉄橋

4. 与田浦のほとり、水と田園が織りなすレイヤー

利根川を渡り切ると、景色は一変します。かつて十二の橋で結ばれていたという水郷の奥深く、与田浦エリアに入りました。

手前には豊かな田んぼが広がり、その奥に与田浦の水面、さらにその向こうを高架の線路が横切っています。田園風景の中にぽつんと浮かぶように佇んでいるのは、JR鹿島線の十二橋駅です。

水と陸、稲穂の緑、そしてコンクリートの高架線。水郷地帯特有の景観のレイヤー(層)の中に、人が暮らし、列車が通るローカルな旅情が静かに漂っています。

与田浦越しのJR十二橋駅

5. 沈木舟と煙突――時間の積層を眺める

与田浦川橋の上に差し掛かったとき、ふと足を止めました。

水面に目をやると、半ば沈んだ古い木舟が草を生やしたまま斜めに傾いていました。かつてこの水路を日常の足として行き交っていたであろう、古き水郷の生活の記憶です。

そして視線を上げると、与田浦の穏やかな水面の向こう、遠く霞む空に鹿島臨海工業地帯の煙突群が立ちのぼっていました。

水に沈みゆく木舟と、現代の産業を支える巨大な工業インフラ。新旧の時間が同じ水平線の上に重なり合うこの風景は、土地の変遷を見つめてきた水郷ならではの、どこか深くノスタルジックな佇まいを見せていました。

与田浦の沈舟と鹿島臨海工業地帯

6. 影を抜け、光と風の土手道へ

与田浦をあとにし、東関道の高架下を潜り抜けます。暗がりを抜けた瞬間、頭上が一気に開け、北利根川の雄大な水面が目の前に広がりました。

手前には力強く伸びる草の緑、波立つ川面のブルー、実りの秋を予感させる空を流れる雲が広がっています。

ここからの土手道は、まさにサイクリストにとってのパラダイスです。BESV PSF1のペダルを軽快に回すと、アシストの力と相まって、まるで風そのものになったかのように滑らかに加速していきます。遮るもののない広大なスカイラインの中を、ただ風の音だけを聞きながら走る贅沢な時間が流れます。

東関道高架を抜けた北利根川の開放感

7. 対岸の潮来を望み、船団を待つ

やがて対岸にJR鹿島線の潮来駅周辺の街並みや電波塔が見えてきました。

加藤洲の観賞ポイントまであとわずかというこの場所で、私は一度自転車を止めました。北利根川の川面を吹き渡る微風を感じながら、12年に一度の大船団がこの水路を遡上してくるその瞬間を静かに待つためです。

静寂に包まれていた水面が、心なしか遠くのエンジン音と水飛沫の気配を孕み始めているのが伝わってきます。

北利根川越しに見る潮来方面

8. 混雑のなかを押し歩き、加藤洲の核心へ

やがて水上祭の始まりとともに、それまで静もり返っていた沿道や水路周辺には、どこからともなく人々が集まり始め、ハレの日の熱気が一気に高まっていきました。

私はPSF1のペダルを止め、車体から降りました。大勢の観客が行き交う賑わいの中、愛車のハンドルを握り、ゆっくりと押し歩きながら加藤洲の核心部へと足を進めます。

さっきまで感じていた圧倒的な静寂と、目の前で繰り広げられる12年に一度の熱気。その鮮やかなコントラストを肌で感じながら、私は北利根川を遡上する大船団を迎える場所へと向かいました。

(※北利根川を遡上する迫力の大船団と御船祭の模様は、以下の記事へ続きます)

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